2008年11月4日火曜日

台湾大学で森教授が台湾環境大臣と面談しました。

ちょっと前の話になって恐縮ですが、ケミレスタウンを主宰する、千葉大学大学院医学研究院教授の森千里が、9月6日、台湾大学で講演をしました。

POPs(Persistent Organic Pollutants=残留性有機汚染物質)の対策についての講演会で、台湾行政院環境保護署(英語では、Environmental Protection Administrationです。日本では環境省にあたります)の主催でした。そこで、森が「日本のPOPs対策」について話をしました。

講演会場に車が着いたところ、会場の前にはテレビ局のカメラなどが来ており、「今日は何か特別な催し物でもあるのかなあ」と思っていたのですが、なんと私たちの参加した会議を取材に来ていたのでした。会場に案内されて驚きました。とても大きな階段教室で、大勢の学生たちが集まっていました。

控え室に行くと、環境保護署のトップの皆さんがご挨拶に来てくださいました。私たちは、もっと小ぢんまりとした会議を想像していたので、びっくり仰天して、おろおろしてしまいました。

講演会の冒頭、森からは、へその緒からはたくさんの種類の残留性汚染物質が検出されており、それらによる胎児影響が心配であるというお話をしました。たとえば、ダイオキシン、PCB、臭素系難燃剤、カドミウム、水銀などの重金属、有機スズなど、さまざまな蓄積性のある(体の中から出て行きにくい)汚染物質が、現在生まれてくる赤ちゃんのほぼ100%のへその緒から検出されています。

へその緒は、胎盤の内側、胎児の側の組織で、胎児の体の一部です。へその緒は、お母さんと胎児を結ぶ唯一の組織で、お母さんから大切な栄養と一緒にいろんな汚染物質も胎児に送られてしまいます。これらの複合的な汚染によって、どのような健康影響が出ているのか、未知の部分が多いので、小児科、産婦人科と共に「臍帯(へその緒)プロジェクト」をつくり、小児アレルギーとの関連を研究しています。その経緯をご報告させていただきました。

この辺りの詳細は、私たちの著書「へその緒が語る体内汚染」(技術評論社)に詳しいので、お知りになりたい方はぜひ読んでみてください。

残留性の汚染物質のみならず、残留性の低い物質ももちろん胎児側に行っているのですが、残留性が低いということは、つまり、分解されやすい物質ということで、そういう物質を精密に分析して測定することはとても難しいのです。ただ、残留性が低くても、常に体外から体内に取り込んでいると、常にその物質にさらされているのと同じことになり、その影響は残留性が高いものと変わらない、ということになります。もし、分解されやすいものでも精密に分析する方法ができれば、汚染実態をもっと詳細に明らかにすることができると思うのですが、今のところは、残留性が高いものを中心に測定しています。

講演会終了後、環境保護署で「ディスカッション」を、ということで、案内していただきました。私たちは、環境汚染物質について現場で働いている方たちと、具体的な対策についての打ち合わせを小会議室などで行うのだろう、と気軽に「はいはい」と言いながらついていったのです。

環境保護署の正面玄関では記念写真をぱちり。さあ、次はどこで写真とろうかな、と案内されるままにビルを上がっていくと、なんだかりっぱなお部屋に通されました。「??この部屋はテーブルがないから会議はできないのでは??あれ?ずいぶん立派な椅子が並んでいる・・・。えっこれって、よく国会で閣議前に大臣たちが横並びに並んで写真を撮っている、あんな感じ??」とまたもやおろおろしていると、「さあさあ、森先生はその真ん中の左に座って。戸高さんはその横の椅子に座って」と促されてしまいました。「どうしよう、どうしよう」と言っている間に、台湾行政院環境保護署の沈世宏(Shu-Hung Shen)署長が、「やあやあ」と入ってこられました。

同行してくださった、台湾大学公共衛生院の林先生から、「He is the Minister of the Administration.」といわれ、「Minister? Ministerって、ミ、ニ、ス、タ、ー???『大臣』?じゃあ、台湾の『環境大臣』??」と何度も森と顔を見合わせました。

沈署長は、大変流暢な英語を話され、笑顔を絶やさないスマートな方です。以前、台湾市の環境担当の責任者だったとのことで、馬英九さんが台湾の新しい総統になられたときに、国の環境行政のトップに抜擢された、とのことでした。

沈署長からは、台湾で今「日本のように台湾をきれいにしよう」というプロジェクトが進んでいる、というお話や、台湾での環境教育、リサイクルのお話しなどを聞かせていただきました。おみやげに、台湾の小学生が環境をテーマにして描いた絵を印刷したマグネットや、携帯用のお箸をいただきました。

森教授からは、ぜひ台湾でも環境中の微量汚染物質による健康影響について研究を進めてほしい、というお話しをさせていただきました。

戸髙恵美子(千葉大学環境健康フィールド科学センター 助教)