2008年1月3日木曜日

未来世代のための街づくり「ケミレスタウン®プロジェクト」 part3

未来に患者の増加を食い止める予防医学

そこで、因果関係が明らかにならなくても、環境を改善することで将来発症するかもしれない患者さんの増加を食い止める「環境改善型予防医学」を研究する「ケミレスタウン®・プロジェクト」が生まれました。

「ケミレスタウン®・プロジェクト」とは、千葉大学柏の葉キャンパス(千葉県柏市)の敷地内に、戸建住宅型の実験棟を5 棟、シックハウス症候群や希望者の血中化学物質濃度を測定する「環境医学診療科」などが入る「テーマ棟」1 棟を建設し、化学物質(ケミカル)の少ない(レス)街のモデルを作ろう、というプロジェクトです。

もちろん、完全に化学物質を排除することなどできませんし、化学物質なくして現代人の生活は成り立たないことも事実です。そこで、可能な限り、使用する化学物質を減らすのです。本当に必要な物質のみを使い、不必要な物質は使わないようにし、シックハウスの原因となる物質はシックハウスを引き起こさない物質に変えていく、という風に街全体を作るのです。

建物が完成したら、室内空気質を測定し、まずプロジェクト関係者が滞在してみて、快適性や室内の使いやすさを改善した上で、シックハウス症候群が疑われるお子さんとそのご家族で希望される方が、1~2 週間程度の短期間ですが、滞在できるようにします。

この中に滞在することで症状が改善されれば、室内空気に原因のあることがわかり、次の対策をとることができます。そしてもし、症状に改善が見られないのであれば、室内空気ではなくほかに原因があることが分かります。

プロジェクトでは、5 年をかけて、汚染物質に対して大人よりも弱い小児や胎児を基準にした家づくり、街づくりを提案していく予定です。

このようなモデルタウンを大学のキャンパスの中だけに作っても、社会の役には立ちません。周辺の小・中学校や高校などでもシックスクールを予防できる対策を行い、そこに通う児童・生徒が健康に過ごせるよう取り組んでいく予定です。

このプロジェクトが各マスコミで紹介されるようになって驚いたことは、全国から問い合わせが来ることです。「新築のマンションを買ったが、刺激臭がひどくて眠れない」「それまで何ともなかったのに、引っ越した日から子供にぜん息の症状が出て困っている」「新築の建売住宅を購入したが、臭いがひどいのでハウスメーカーに苦情を言っているが、メーカーは『基準以内だ』と言って埒が明かない」などなど、本当に困っている方が多いことがわかります。

さらに、ドイツや韓国からも問い合わせが来ています。いったいこれまでの室内空気対策はどうなっているのかと聞きたいくらいです。今、日本各地で街の再生が必要とされています。既存の街を再開発する場合や、これから新しく開発する場合に、これから生まれてくる世代、「未来世代」が、より健康に暮らせる街を作っていただくことを私たちは希望しています。

そして、この考えを、アジアを始め世界に普及させ、世界のどこに住んでいても、より健康をエンジョイできる社会を築いていくきっかけとなればこれに勝る喜びはありません。私たちの活動にご興味のある方は、以下のホームページや書籍をご覧ください。
森 千里 (千葉大学 大学院医学研究院 教授)

ケミレスタウン推進協会
へその緒が語る体内汚染 ~未来世代を守るために (森・戸髙共著)

未来世代のための街づくり「ケミレスタウン®プロジェクト」 part2

膨大な化学物質の影響を解明するのは困難

しかし、この症状は個人差が非常に大きく、室内濃度が高くても何の症状もでない人もいれば、低い濃度であっても敏感に反応する人もいます。また、成人と子供とでは、感受性が大きく異なります。そのため、シックハウス症候群になっても同居人が発症していないと、症状を理解してもらえないことになります。

私の知り合いで、産婦人科の医者である人が家を新築したのですが、中学生のご子息がシックハウス症候群を発症してしまいました。悪いことに、通っていた中学校も新築で、学校でもシックスクールに悩まされることになってしまったのです。さらに奥様も体調を悪くされ、とうとう奥様とご子息とで、オーストラリアに引っ越してしまいました。

なぜオーストラリアかというと、彼の地では建物がレンガ造りであるため、シックハウスが非常に少ないからなのです。何十年ものローンを抱えて新しい家に移り住んだのに、家族が次々と病気になるばかりか、分裂してしまうなんて、悲劇としかいいようがありません。

国は、シックハウス症候群の問題を解決するべく、建築基準法を2003 年7 月に改正し、原因物質のひとつとされているホルムアルデヒトについては、室内空気中の濃度0.08ppm 以下とする、という基準を作りました。ところが、この基準ができたために、建築業界、インテリア業界の中で「シックハウス症候群は対策が済んだ」という認識が広がってしまい、逆に対策が進まなくなる、という皮肉な現象が起こりました。

確かに、ホルムアルデヒトはかつてかびの発生や建材の腐食を防止するため合板の接着剤に大量に含まれており、その刺激性や健康影響は問題です。ですから規制しなければいけないことは間違いありません。しかし、ホルムアルデヒト以外にも、例えばトルエン、キシレンなど揮発性が高く、人に健康影響を与える物質は多くあります。

現在、殺虫剤なども含めた13 の化学物質については、法的な拘束力はないものの、厚生労働省が「指針値」を設定しています。しかし、前述したとおりシックハウス症候群を発症する原因は特定されていません。

建物の中には数え切れないほどの人工・天然の化学物質が存在し、どの物質によってどんな影響が出るのか、あるいはどの物質とどの物質が合うことによってどんな影響が出るのかといった因果関係を人間で明らかにするのは非常に困難です。
part3 につづく

森千里(千葉大学 大学院医学研究院 教授)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。

未来世代のための街づくり「ケミレスタウン®プロジェクト」 part1

豊かになった社会が生んだ「シックハウス症候群」

読者の皆様は、「シックハウス症候群」という症状を聞いたことがあるでしょうか。あるいは、自ら体験なさった方もあるかもしれません。これは、新築の住宅やビルに入ると、目がチカチカする、熱が出る、関節が痛む、身体がだるい、めまい、吐き気がする、などといった一連の症候群です。アメリカでは、オフィスビルでこのような症状が問題になったことから、「シックビル症候群」と呼ばれています。

小泉総理の時代、首相官邸が新築され、当時の官房長官らが「官邸の中にいると目がチカチカしてくる。シックハウス症候群ですね」と言っていた様子をテレビでご覧になった方もあるでしょう。

原因となるのは、建材に含まれるさまざまな化学物質です。接着剤、防腐剤として使われるホルムアルデヒトやトルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物が原因と考えられます。さらに、家を建ててもそれだけでは人は生活できませんから、実際にはさまざまな家具や家電製品を入れることになります。

その家具や家電製品から揮発してくる物質、さらには消臭剤や洗剤、香料などに含まれる化学物質なども原因物質として疑われます。また、人工的な化学物質のみならず松やヒノキなどに含まれる天然の化学物質によって体調を崩す人もいます。

シックハウス症候群は、症状が多岐に渡る上、因果関係を立証するのが難しいため、なかなか実態をつかみにくい疾患です。しかし、この症状は、原因物質さえなければ発症することはなく、健康に過ごせるのです。

戦後、日本が経済的に発展する過程で都市の人口が増え、住宅が不足したため、安価で短期間に家を建てられる新建材を利用した住宅が日本各地に建設されました。これによって、多くの人が自分の家を持ったり団地に住むことができるようになりました。

しかしそのために、それまではなかった新しい病気が現れることになったのです。昨年、オリンピックの準備に沸く北京に行ったときのことです。北京では、近年の好景気によってお金持ちの人が増えています。お金ができると新しく家を建てるのですが、それによってシックハウス症候群になる方が増え、現在、訴訟沙汰になっている例もある、と聞きました。

つまり、レンガと土でできた古い家に住んでいれば健康だったのに、経済的に豊かになって新しい家を建てたばかりに病気になってしまったのです。シックハウス症候群は、経済的に発展した結果発症する人が増える疾病とも言えます。
part2 につづく

森千里(千葉大学 大学院医学研究院 教授)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。

2008年1月2日水曜日

シックハウス症候群とは part4

「胎児」を基準にした化学物質の使用量へ

この、ユニバーサルデザインに、化学物質の使用量を人の中で最も感受性の高い「胎児」を基準にしよう、という概念を取り入れたのが、「環境ユニバーサルデザイン」です。これは、ケミレスタウン・プロジェクトの主催者である森千里・千葉大学大学院教授と、戸高恵美子・千葉大学環境健康フィールド科学センター助教とで考えた概念です。

化学物質に対する感受性は、個人差も非常に大きいですが、成人よりも成長期にある子供、さらに母親の胎内にいる時期は感受性がもっとも高いのです。現在の毒性学は、「体重50キログラムの成人」を基準としています。体重50キログラムの成人、とは、すでに成長は止まり、心身ともに完成した状態です。人の一生の中でもっとも強い時期とも言えます。

このような強い状態にある人を基準にして化学物質の使用基準をつくっても、これでは弱い人は守れません。成人でも感受性の高い人、成長期にある子供、胎児を守るには、人生の中でもっとも弱い時期、「胎児期」を基準に化学物質の使用基準を設け、社会作りをすることが重要です。

胎児期に環境中の汚染物質にさらされたために先天異常を背負うことになったり、アレルギー症状を発症したりする人たちのケアをするためにかけるコストは、最初から胎児期、小児期に不必要な暴露をしないような環境にしておいて先天異常やアレルギーの発症を予防するコストに比べると莫大に大きなものになってしまいます。

アレルギーの原因はさまざまであり、化学物質のみにその原因を求めるわけにはいきませんが、過去十数年で小児のアレルギーが急増し、現在小学生の35%程度に何らかのアレルギーが見られる事を考えると、何らかの環境の変化、住宅の機密性が向上したために室内での濃度が増加した化学物質にもその原因の一部があるのではないでしょうか。

総人口の中では、これらの弱い人たちはわずかです。しかし、最初からこのような弱い人を基準にした街づくりをしておけば、さまざまな疾患を発症した患者に対して医療費を使うよりも結局安上がり、ということになります。また、化学物質に対する感受性が今は高くない、という人も、いつ、花粉症のように発症するかわかりません。あるいは、すでに何らかの化学物質による症状を発症しているのに、自分では気が付いていないだけかもしれません。

人のライフステージの中でもっとも感受性の高い胎児期にあわせて環境もユニバーサルデザインすることで、現世代のすべての人、そして未来の世代の人にとっても健全な社会が可能になるのではないでしょうか。

戸高恵美子(千葉大学 環境健康フィールド科学センター 助教)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。

シックハウス症候群とは part3

環境ユニバーサルデザインの街づくり

「ユニバーサルデザイン」という言葉が最近よく使われるようになっています。「ユニバーサル(universal)」とは、万人に通じる、とか普遍的な、とか全員に共通する、などといった意味です。従来よく使われていた「バリアフリー」とどう違うのでしょうか。

アメリカの建築家で自ら車椅子生活を送っていたロン・メイスという人は、身障者用にデザインされたものが、種類も限られ、価格も高いという現実をなんとか変えたいと思っていたそうです。そこで、「改善または特殊化された設計なしで、最大限可能な限り、すべての人々に利用しやすい環境と製品のデザイン。または、製品、建物、環境をあらゆる人が利用できるようにはじめから考えてデザインするという概念」である、ユニバーサルデザインを提唱しました。

事故や病気、高齢によって身体が不自由になると、それまで当たり前にできていたことができなくなります。歩く、食べる、排泄をする、入浴する、そういったことができなくなると、人はその日から生活に困る事になります。

少し前、高齢化が話題になり始めた頃、介護をする家族が家のリフォームをしたり、公共の施設が身体障害者の方に使いやすいように建物の段差をなくす工事をするなど、「バリアフリー化」が各地で行われました。それは非常に素晴らしいことなのですが、一度完成しているものに手を加えるとなると、大変なコストがかかることになります。場合によっては、バリアフリーにしたくても、もともとの設計の関係で、不可能なこともあるでしょう。

今も各地の駅構内などでは、エレベーターやエスカレーターの設置工事を行っていると思います。東京のJRお茶の水駅は、周辺に多くの大病院があるにもかかわらず、駅構内にエレベーターやエスカレーターがなく、患者さんにとっては「魔の駅」だったと聞いたことがあります。

そのようなところにエレベーターができれば、病気の方はもとより、お年寄りやベビーカーを押している方も助かることでしょう。しかし、元々ないところにエレベーターを設置するのですから、大変なコストがかかる上、利用者にとっても工事中は不便この上ないことになります。エレベーターを設置できる場所も限られており、「なんでこんなところにエレベーターが?」と思うような不便なところに設置されることもあります。

誰しも、今は元気であってもいつなんどき、事故や病気で身体障害を背負う事になるかわかりませんし、老いはもちろん誰にでもやってきます。そう考えると、駅をつくるにも、最初からお年寄りや障害者のことを考えてトイレも障害者対応に、エスカレーターもエレベーターも設置しておいた方が、設計も美しくできるし、コストも割安ですむのではないでしょうか。

最近では、ユニバーサルデザインによる建設が少しずつ導入されており、エレベーターは車椅子対応のものが設置されています。多くのビルのトイレに、最初から身障者対応になった個室がついています。このような設計は、身障者の方が利用する予定がなくても最初から建設の際のデザインに取り入れてあったために、将来身障者の方が利用することになったとして、その際にわざわざその方のためだけにデザインしなおし、リフォームするよりはずっとコストが低くて済むし、デザイン的にもしっくりきます。

ほかにも、ちょっとした段差であっても、車椅子の方や足の不自由な人には不便なことがあります。だから、最初から段差をつくらないようなデザインになっていたりします。これも、障害者はもちろん、健常者にとっても助かる工夫です。健常者であっても、床の段差や電気のコードなどにつまずくことはよくあるからです。

また、文房具メーカーも、健常者も身体の不自由な人も一緒に使える、ユニバーサルデザインのおしゃれな文房具を開発しています。健常者にとってなんらマイナスがなく、身障者の人も人生を楽しむことができる、そこがユニバーサルデザインの斬新なところです。全人口に比較すれば、身障者やお年寄りの数は少ないのですが、それらの人を基準にすれば、ほかの多くの人にとって暮らしやすい社会になります。 part4へ続く

戸高恵美子(千葉大学 環境健康フィールド科学センター 助教)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。

シックハウス症候群とは part2

シックハウス症候群への対応「ケミレスタウン®・プロジェクト」

国は、シックハウス症候群の問題を解決するべく、建築基準法を2003年7月に改正し、原因物質のひとつとされているホルムアルデヒドについては、室内空気中の濃度を0.08ppm(100μg/m3)以下とする、という基準値をつくりました(シロアリ駆除剤のクロルピリフォスは原則使用禁止)。ところが、この基準ができたために、建築業界、家具メーカーの業界、インテリア業界の中で「シックハウス症候群は対策が済んだ」という認識が広がってしまい、逆に対策が進まなくなる、という皮肉な現象が起こりました。

確かに、ホルムアルデヒドはかつてかびの発生や建材の腐食を防止するため合板の接着剤に大量に含まれており、その刺激性や健康影響は問題です。ですから規制しなければいけないことは間違いありません。しかし、ホルムアルデヒド以外にも、建材や家具から揮発してくるもので人に健康影響を与える物質は多くあります。

化学物質の用途と室内濃度指針値(厚生労働省)。表をクリックすると拡大します。現在、殺虫剤なども含めた13(左記表参照。表をクリックすると拡大します。)の化学物質については、法的な拘束力はないものの、厚生労働省が「指針値」を設定しています。しかし、前述したとおりシックハウス症候群を発症する原因は、特定されていません。建物の中には数え切れないほどの人工・天然の化学物質が存在し、どの物質によって人の健康にどんな影響が出るのか、あるいはどの物質とどの物質が合わさるとどんな影響が出るのか、そのような因果関係を明らかにするのは非常に困難です。

そこで、因果関係が明らかにならなくても、環境を改善することで将来発症するかもしれない患者さんの増加を食い止める「環境改善型予防医学」を研究するのが、「ケミレスタウン®・プロジェクト」です。

 「ケミレスタウン®・プロジェクト」とは、千葉大学柏の葉キャンパス(千葉県柏市)の敷地内に、戸建住宅型の実験棟や、シックハウス症候群や希望者の血中化学物質濃度を測定する「環境医学診療科」などが入る「テーマ棟」を建設し、化学物質(ケミカル)の少ない(レス)街のモデルを作ろう、というプロジェクトです。

もちろん、完全に化学物質を排除することなどできませんし、化学物質なくして現代人の生活は成り立たないことも事実です。そこで、可能な限り、使用する化学物質を減らすのです。本当に必要な物質のみを使い、不必要な物質は使わないようにし、シックハウスの原因となる物質はシックハウスを引き起こさない物質に変えていく、と言う風に街全体を作るのです。

建物が完成しましたら、室内空気質を測定し、まずはプロジェクト関係者が滞在してみて、快適性や室内の使いやすさを改善した上で、シックハウス症候群を疑われるお子さんとそのご家族で希望される方が滞在できるようにします。この中に滞在することで症状が改善されれば、室内空気に原因のあることがわかり、次の対策をとることができます。そしてもし、症状に改善が見られないのであれば、室内空気ではなく、なんらかのほかの原因があることがわかります。

プロジェクトでは、5年をかけて、汚染物質に対して大人よりも弱い小児や胎児を基準にした家作り、街づくりを提案していく予定です。

このようなモデルタウンを大学のキャンパスの中だけにつくっていても、社会の役には立ちません。周辺の小・中学校や高校などでもシックスクールを予防できる対策を行い、そこに通う児童・生徒が健康に過ごせるようにと取り組んでいく予定です。

このプロジェクトが各マスコミで紹介されるようになって驚いたことは、全国からお問い合わせが来ることです。「新築のマンションを買ったが、刺激臭がひどくて眠れない」「それまでなかったのに、引っ越した日から子供にぜん息の症状が出て困っている」「新築の建売住宅を購入したが、臭いがひどいのでハウスメーカーに苦情を言っているが、メーカーは『基準以内だ』と言って埒が開かない」などなど、本当に困っている方が多いことがわかります。

今、日本各地で街の再生が必要とされています。既存の街を再開発する場合や、これから新しく開発する場合に、これから生まれてくる世代、「未来世代」が、より健康に暮らせる街を作っていただけることを私たちは希望しています。そして、この考えを、アジアを始め世界に普及させ、世界のどこに住んでいても、より健康をエンジョイできる社会を築いていくきっかけとなればこれに勝る喜びはありません。
一人でも多くの方が、シックハウス症候群という疾患について理解し、住宅を購入する際には、価格や間取り、交通アクセスなど以外に、「空気の健康」についても考えていただけるように取り組んでいきます。(「ケミレス」「ケミレスタウン」は、NPO次世代環境健康学センターの登録商標です)
part3 へ続く

戸髙恵美子(千葉大学 環境健康科学フィールドセンター助教)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。

シックハウス症候群とは part1

シックハウス症候群とは

「シックハウス症候群」という症状を聞いたことがあるでしょうか。あるいは、自ら体験なさった方もあるかもしれません。新築の住宅やビルに入ると、目がチカチカする、熱が出る、関節が痛む、身体がだるい、めまい、吐き気がする、などといった一連の症候群です。アメリカでは、オフィスビルでこのような症状が問題になったことから、「シックビル症候群」と呼ばれています。

小泉総理の時、首相官邸が新築され、当時の官房長官らが「官邸の中にいると目がちかちかしてくる。シックハウス症候群ですね」と言っていたのをテレビでご覧になった方もあるでしょう。

原因となるのは、建材に含まれるさまざまな化学物質です。接着剤、防腐剤として使われるホルムアルデヒドや、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物が原因と考えられます。しかし、家を建ててもそれだけでは人は生活できませんから、実際にはさまざまな家具や家電製品を入れることになります。その家具や家電製品から揮発してくる物質、さらには消臭剤や洗剤、香料などに含まれる化学物質なども原因物質として疑われます。また、人工的な化学物質のみならず松やヒノキなどに含まれる天然の化学物質によって体調を崩す人もいます。

シックハウス症候群の症状。北里研究所病院臨床環境医学センター受診者のデータよりシックハウス症候群は、症状が多岐に渡る上(左記グラフ参照。北里研究所病院臨床環境医学センター受診者のデータより)、因果関係を立証するのが難しいため、なかなか実態をつかみにくい疾患です。しかし、この症状は、原因物質さえなければ発症することはありません。健康に過ごせるのです。

戦後、日本が経済的に発展する過程で都市の人口が増え、住宅が不足したため、安価で短期間に家を建てられる新建材を利用した住宅が日本各地に建設されました。これによって、多くの人が自分の家を持ち、あるいは団地に住むことができるようになりました。

しかし、そのためにそれまではなかった新しい病気が現れることになったのです。

2006年秋、オリンピックの準備に沸く北京に行ったときに、現地の大学関係者に聞いた話です。北京や上海など、中国の大都会では、近年の好景気によってお金持ちの人が増えています。お金持ちになると、新しく家を建てるのですが、それによってシックハウス症候群になる方が増え、現在、訴訟沙汰になっている例もある、というのです。つまり、レンガと土でできた古い家に住んでいれば健康だったのに、経済的に豊かになって新しい家を建てたばっかりに病気になってしまったのです。

かつての日本でもそうであったとおり、シックハウス症候群は、経済的に発展した結果発症する人が増える疾病とも言えます。

 しかし、この症状は個人差が非常に大きく、室内濃度が高くてもなんとも感じない人もいれば、低い濃度であっても敏感に反応する人もいます。また、成人と子供とでは、感受性が大きく異なります。そのため、シックハウス症候群になってしまっても同居人が発症していないと、症状を理解してもらえないことになります。
part2 に続く

戸髙恵美子(千葉大学 環境健康科学フィールドセンター助教)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。

2008年1月1日火曜日

ケミレスタウン全景


ケミレスタウンの様子