2008年1月2日水曜日

シックハウス症候群とは part2

シックハウス症候群への対応「ケミレスタウン®・プロジェクト」

国は、シックハウス症候群の問題を解決するべく、建築基準法を2003年7月に改正し、原因物質のひとつとされているホルムアルデヒドについては、室内空気中の濃度を0.08ppm(100μg/m3)以下とする、という基準値をつくりました(シロアリ駆除剤のクロルピリフォスは原則使用禁止)。ところが、この基準ができたために、建築業界、家具メーカーの業界、インテリア業界の中で「シックハウス症候群は対策が済んだ」という認識が広がってしまい、逆に対策が進まなくなる、という皮肉な現象が起こりました。

確かに、ホルムアルデヒドはかつてかびの発生や建材の腐食を防止するため合板の接着剤に大量に含まれており、その刺激性や健康影響は問題です。ですから規制しなければいけないことは間違いありません。しかし、ホルムアルデヒド以外にも、建材や家具から揮発してくるもので人に健康影響を与える物質は多くあります。

化学物質の用途と室内濃度指針値(厚生労働省)。表をクリックすると拡大します。現在、殺虫剤なども含めた13(左記表参照。表をクリックすると拡大します。)の化学物質については、法的な拘束力はないものの、厚生労働省が「指針値」を設定しています。しかし、前述したとおりシックハウス症候群を発症する原因は、特定されていません。建物の中には数え切れないほどの人工・天然の化学物質が存在し、どの物質によって人の健康にどんな影響が出るのか、あるいはどの物質とどの物質が合わさるとどんな影響が出るのか、そのような因果関係を明らかにするのは非常に困難です。

そこで、因果関係が明らかにならなくても、環境を改善することで将来発症するかもしれない患者さんの増加を食い止める「環境改善型予防医学」を研究するのが、「ケミレスタウン®・プロジェクト」です。

 「ケミレスタウン®・プロジェクト」とは、千葉大学柏の葉キャンパス(千葉県柏市)の敷地内に、戸建住宅型の実験棟や、シックハウス症候群や希望者の血中化学物質濃度を測定する「環境医学診療科」などが入る「テーマ棟」を建設し、化学物質(ケミカル)の少ない(レス)街のモデルを作ろう、というプロジェクトです。

もちろん、完全に化学物質を排除することなどできませんし、化学物質なくして現代人の生活は成り立たないことも事実です。そこで、可能な限り、使用する化学物質を減らすのです。本当に必要な物質のみを使い、不必要な物質は使わないようにし、シックハウスの原因となる物質はシックハウスを引き起こさない物質に変えていく、と言う風に街全体を作るのです。

建物が完成しましたら、室内空気質を測定し、まずはプロジェクト関係者が滞在してみて、快適性や室内の使いやすさを改善した上で、シックハウス症候群を疑われるお子さんとそのご家族で希望される方が滞在できるようにします。この中に滞在することで症状が改善されれば、室内空気に原因のあることがわかり、次の対策をとることができます。そしてもし、症状に改善が見られないのであれば、室内空気ではなく、なんらかのほかの原因があることがわかります。

プロジェクトでは、5年をかけて、汚染物質に対して大人よりも弱い小児や胎児を基準にした家作り、街づくりを提案していく予定です。

このようなモデルタウンを大学のキャンパスの中だけにつくっていても、社会の役には立ちません。周辺の小・中学校や高校などでもシックスクールを予防できる対策を行い、そこに通う児童・生徒が健康に過ごせるようにと取り組んでいく予定です。

このプロジェクトが各マスコミで紹介されるようになって驚いたことは、全国からお問い合わせが来ることです。「新築のマンションを買ったが、刺激臭がひどくて眠れない」「それまでなかったのに、引っ越した日から子供にぜん息の症状が出て困っている」「新築の建売住宅を購入したが、臭いがひどいのでハウスメーカーに苦情を言っているが、メーカーは『基準以内だ』と言って埒が開かない」などなど、本当に困っている方が多いことがわかります。

今、日本各地で街の再生が必要とされています。既存の街を再開発する場合や、これから新しく開発する場合に、これから生まれてくる世代、「未来世代」が、より健康に暮らせる街を作っていただけることを私たちは希望しています。そして、この考えを、アジアを始め世界に普及させ、世界のどこに住んでいても、より健康をエンジョイできる社会を築いていくきっかけとなればこれに勝る喜びはありません。
一人でも多くの方が、シックハウス症候群という疾患について理解し、住宅を購入する際には、価格や間取り、交通アクセスなど以外に、「空気の健康」についても考えていただけるように取り組んでいきます。(「ケミレス」「ケミレスタウン」は、NPO次世代環境健康学センターの登録商標です)
part3 へ続く

戸髙恵美子(千葉大学 環境健康科学フィールドセンター助教)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。