2008年1月3日木曜日

未来世代のための街づくり「ケミレスタウン®プロジェクト」 part2

膨大な化学物質の影響を解明するのは困難

しかし、この症状は個人差が非常に大きく、室内濃度が高くても何の症状もでない人もいれば、低い濃度であっても敏感に反応する人もいます。また、成人と子供とでは、感受性が大きく異なります。そのため、シックハウス症候群になっても同居人が発症していないと、症状を理解してもらえないことになります。

私の知り合いで、産婦人科の医者である人が家を新築したのですが、中学生のご子息がシックハウス症候群を発症してしまいました。悪いことに、通っていた中学校も新築で、学校でもシックスクールに悩まされることになってしまったのです。さらに奥様も体調を悪くされ、とうとう奥様とご子息とで、オーストラリアに引っ越してしまいました。

なぜオーストラリアかというと、彼の地では建物がレンガ造りであるため、シックハウスが非常に少ないからなのです。何十年ものローンを抱えて新しい家に移り住んだのに、家族が次々と病気になるばかりか、分裂してしまうなんて、悲劇としかいいようがありません。

国は、シックハウス症候群の問題を解決するべく、建築基準法を2003 年7 月に改正し、原因物質のひとつとされているホルムアルデヒトについては、室内空気中の濃度0.08ppm 以下とする、という基準を作りました。ところが、この基準ができたために、建築業界、インテリア業界の中で「シックハウス症候群は対策が済んだ」という認識が広がってしまい、逆に対策が進まなくなる、という皮肉な現象が起こりました。

確かに、ホルムアルデヒトはかつてかびの発生や建材の腐食を防止するため合板の接着剤に大量に含まれており、その刺激性や健康影響は問題です。ですから規制しなければいけないことは間違いありません。しかし、ホルムアルデヒト以外にも、例えばトルエン、キシレンなど揮発性が高く、人に健康影響を与える物質は多くあります。

現在、殺虫剤なども含めた13 の化学物質については、法的な拘束力はないものの、厚生労働省が「指針値」を設定しています。しかし、前述したとおりシックハウス症候群を発症する原因は特定されていません。

建物の中には数え切れないほどの人工・天然の化学物質が存在し、どの物質によってどんな影響が出るのか、あるいはどの物質とどの物質が合うことによってどんな影響が出るのかといった因果関係を人間で明らかにするのは非常に困難です。
part3 につづく

森千里(千葉大学 大学院医学研究院 教授)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。