2008年1月3日木曜日

未来世代のための街づくり「ケミレスタウン®プロジェクト」 part1

豊かになった社会が生んだ「シックハウス症候群」

読者の皆様は、「シックハウス症候群」という症状を聞いたことがあるでしょうか。あるいは、自ら体験なさった方もあるかもしれません。これは、新築の住宅やビルに入ると、目がチカチカする、熱が出る、関節が痛む、身体がだるい、めまい、吐き気がする、などといった一連の症候群です。アメリカでは、オフィスビルでこのような症状が問題になったことから、「シックビル症候群」と呼ばれています。

小泉総理の時代、首相官邸が新築され、当時の官房長官らが「官邸の中にいると目がチカチカしてくる。シックハウス症候群ですね」と言っていた様子をテレビでご覧になった方もあるでしょう。

原因となるのは、建材に含まれるさまざまな化学物質です。接着剤、防腐剤として使われるホルムアルデヒトやトルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物が原因と考えられます。さらに、家を建ててもそれだけでは人は生活できませんから、実際にはさまざまな家具や家電製品を入れることになります。

その家具や家電製品から揮発してくる物質、さらには消臭剤や洗剤、香料などに含まれる化学物質なども原因物質として疑われます。また、人工的な化学物質のみならず松やヒノキなどに含まれる天然の化学物質によって体調を崩す人もいます。

シックハウス症候群は、症状が多岐に渡る上、因果関係を立証するのが難しいため、なかなか実態をつかみにくい疾患です。しかし、この症状は、原因物質さえなければ発症することはなく、健康に過ごせるのです。

戦後、日本が経済的に発展する過程で都市の人口が増え、住宅が不足したため、安価で短期間に家を建てられる新建材を利用した住宅が日本各地に建設されました。これによって、多くの人が自分の家を持ったり団地に住むことができるようになりました。

しかしそのために、それまではなかった新しい病気が現れることになったのです。昨年、オリンピックの準備に沸く北京に行ったときのことです。北京では、近年の好景気によってお金持ちの人が増えています。お金ができると新しく家を建てるのですが、それによってシックハウス症候群になる方が増え、現在、訴訟沙汰になっている例もある、と聞きました。

つまり、レンガと土でできた古い家に住んでいれば健康だったのに、経済的に豊かになって新しい家を建てたばかりに病気になってしまったのです。シックハウス症候群は、経済的に発展した結果発症する人が増える疾病とも言えます。
part2 につづく

森千里(千葉大学 大学院医学研究院 教授)

上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。