シックハウス症候群とは
「シックハウス症候群」という症状を聞いたことがあるでしょうか。あるいは、自ら体験なさった方もあるかもしれません。新築の住宅やビルに入ると、目がチカチカする、熱が出る、関節が痛む、身体がだるい、めまい、吐き気がする、などといった一連の症候群です。アメリカでは、オフィスビルでこのような症状が問題になったことから、「シックビル症候群」と呼ばれています。
小泉総理の時、首相官邸が新築され、当時の官房長官らが「官邸の中にいると目がちかちかしてくる。シックハウス症候群ですね」と言っていたのをテレビでご覧になった方もあるでしょう。
原因となるのは、建材に含まれるさまざまな化学物質です。接着剤、防腐剤として使われるホルムアルデヒドや、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物が原因と考えられます。しかし、家を建ててもそれだけでは人は生活できませんから、実際にはさまざまな家具や家電製品を入れることになります。その家具や家電製品から揮発してくる物質、さらには消臭剤や洗剤、香料などに含まれる化学物質なども原因物質として疑われます。また、人工的な化学物質のみならず松やヒノキなどに含まれる天然の化学物質によって体調を崩す人もいます。
シックハウス症候群は、症状が多岐に渡る上(左記グラフ参照。北里研究所病院臨床環境医学センター受診者のデータより)、因果関係を立証するのが難しいため、なかなか実態をつかみにくい疾患です。しかし、この症状は、原因物質さえなければ発症することはありません。健康に過ごせるのです。
戦後、日本が経済的に発展する過程で都市の人口が増え、住宅が不足したため、安価で短期間に家を建てられる新建材を利用した住宅が日本各地に建設されました。これによって、多くの人が自分の家を持ち、あるいは団地に住むことができるようになりました。
しかし、そのためにそれまではなかった新しい病気が現れることになったのです。
2006年秋、オリンピックの準備に沸く北京に行ったときに、現地の大学関係者に聞いた話です。北京や上海など、中国の大都会では、近年の好景気によってお金持ちの人が増えています。お金持ちになると、新しく家を建てるのですが、それによってシックハウス症候群になる方が増え、現在、訴訟沙汰になっている例もある、というのです。つまり、レンガと土でできた古い家に住んでいれば健康だったのに、経済的に豊かになって新しい家を建てたばっかりに病気になってしまったのです。
かつての日本でもそうであったとおり、シックハウス症候群は、経済的に発展した結果発症する人が増える疾病とも言えます。
しかし、この症状は個人差が非常に大きく、室内濃度が高くてもなんとも感じない人もいれば、低い濃度であっても敏感に反応する人もいます。また、成人と子供とでは、感受性が大きく異なります。そのため、シックハウス症候群になってしまっても同居人が発症していないと、症状を理解してもらえないことになります。
part2 に続く
戸髙恵美子(千葉大学 環境健康科学フィールドセンター助教)
上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。