「胎児」を基準にした化学物質の使用量へ
この、ユニバーサルデザインに、化学物質の使用量を人の中で最も感受性の高い「胎児」を基準にしよう、という概念を取り入れたのが、「環境ユニバーサルデザイン」です。これは、ケミレスタウン・プロジェクトの主催者である森千里・千葉大学大学院教授と、戸高恵美子・千葉大学環境健康フィールド科学センター助教とで考えた概念です。
化学物質に対する感受性は、個人差も非常に大きいですが、成人よりも成長期にある子供、さらに母親の胎内にいる時期は感受性がもっとも高いのです。現在の毒性学は、「体重50キログラムの成人」を基準としています。体重50キログラムの成人、とは、すでに成長は止まり、心身ともに完成した状態です。人の一生の中でもっとも強い時期とも言えます。
このような強い状態にある人を基準にして化学物質の使用基準をつくっても、これでは弱い人は守れません。成人でも感受性の高い人、成長期にある子供、胎児を守るには、人生の中でもっとも弱い時期、「胎児期」を基準に化学物質の使用基準を設け、社会作りをすることが重要です。
胎児期に環境中の汚染物質にさらされたために先天異常を背負うことになったり、アレルギー症状を発症したりする人たちのケアをするためにかけるコストは、最初から胎児期、小児期に不必要な暴露をしないような環境にしておいて先天異常やアレルギーの発症を予防するコストに比べると莫大に大きなものになってしまいます。
アレルギーの原因はさまざまであり、化学物質のみにその原因を求めるわけにはいきませんが、過去十数年で小児のアレルギーが急増し、現在小学生の35%程度に何らかのアレルギーが見られる事を考えると、何らかの環境の変化、住宅の機密性が向上したために室内での濃度が増加した化学物質にもその原因の一部があるのではないでしょうか。
総人口の中では、これらの弱い人たちはわずかです。しかし、最初からこのような弱い人を基準にした街づくりをしておけば、さまざまな疾患を発症した患者に対して医療費を使うよりも結局安上がり、ということになります。また、化学物質に対する感受性が今は高くない、という人も、いつ、花粉症のように発症するかわかりません。あるいは、すでに何らかの化学物質による症状を発症しているのに、自分では気が付いていないだけかもしれません。
人のライフステージの中でもっとも感受性の高い胎児期にあわせて環境もユニバーサルデザインすることで、現世代のすべての人、そして未来の世代の人にとっても健全な社会が可能になるのではないでしょうか。
戸高恵美子(千葉大学 環境健康フィールド科学センター 助教)
上記の内容は、森・戸髙の共著『へその緒が語る体内汚染』に詳しく紹介しています。