2008年11月4日火曜日

台湾の日本語

この仕事を始めてから、台湾に行く機会が多くなりましたが、台湾の方は皆さん驚くほど親日的で、若い方は多くの方が日本語を上手に話します。昔日本の植民地であったので、70歳以上の高齢の方がきれいな(今時の日本語よりもよほどきれいな)日本語を話されるのはわかるのですが、十代、二十代の若い方たちが上手に話すのはなぜなのか?

聞いてみると、皆さん「日本語のドラマやアニメを見て覚える。字幕が出るからわかる」というのです。同様に、アメリカのドラマを見て英語を覚えた、といって、大変流暢なアメリカ英語を話す人もいます。アメリカには一度も行ったことがないのに、です。

翻って、日本ではどうかというと、いくら日本で英語のドラマや映画を見たとしても、とても話せるようになんてなりません。この違いはいったい???

私が思うのは、実は日本語って、割と学びやすい言語なのではないでしょうか?いえ、けっして簡単な、単純な言語だとは言いません。日本人の多くが「日本語は難解な言語だ(そんな難解な言語を操るわれわれはすごい)」と思っており、それも一理あるとは思うのですが、中国語を学ぼうとすると、その発音の難解さに早々に壁にぶつかります。まねはできるのですが、中国語の発音はほんとに複雑で、少しでもイントネーションを間違えると、もうわかってもらえません。それでも私たち日本人は、漢字を使っている分、欧米人が中国語を学ぶのに比べれば、ずっと楽に学べるはずなのですが。

一方、日本語は、発音は単純です。日本語で難しいのは、相手によって呼び方が変わったり、敬語が複雑だったりする点ではないでしょうか。男性言葉、女性言葉もありますし。「あなた」という意味の言葉にも、「おまえ」「あんた」「君」などがあり、口が悪い人は「てめえ」などということもありますね。「わたし」という意味にしても「わたくし」「あたし」「ぼく」「おれ」などがあり、最近は「うちら」などという言い方も流行っています。

しかし、中国語を話す人にとって、日常的に友人との間で使う日本語を学ぶのは、それほど難しいことではないのではないかなと感じています。

一方、「植民地支配というのは、ものすごく強力なものなのだ」とも思わされます。植民地支配が終わり、日本語を使うのはご法度になって何十年もたってもまだしっかりと話せる方たちがたくさんいらっしゃるのですから。

もう一つは、台湾は実は多民族・多言語国家なので、複数の言葉を学ぶことにそれほど身構えないのではないか、とも思います。中国語を学ぶときに一般に使われるのは、いわゆる「北京語」で、英語では「マンダリン」などと言います。しかし、台湾では「台湾語」といわれる言葉も使われており、ほかにも「客家(はっか)語」「広東語(英語ではカントニーズ)」、またほかにさまざまな先住民族(台湾では「原住民」と呼びます)がいるので、その方たちは独自の言葉を持っています。台湾のテレビ局には、「北京語」のほかに、「客家語」「広東語」などの放送局があり、それぞれの言葉でドラマなども作っているそうです。

そう考えると、台湾の方がいろいろな国の言葉を比較的容易に受け入れるのも、なるほどとうなずけるものがあります。政治的な背景からか、逆に今五十代、六十代の方たちのほうが、日本語が話せなかったりします。台湾の教授たちと話していると、子供の頃、両親は子供に聞かせたくない話をするときはお互い日本語で話しをしていた、という話しをよく聞きます。

9月にお会いした環境保護署のある方は、現在五十代の後半ですが、日本語をよくお話しになります。聞くと、同年代のほかの多くの方と同様、「両親は私たち子供に聞かせたくない話をするときは日本語で話していた」というのです。ところがその方は、「両親が話しているのを聞いて、どうしても日本語がわかるようになりたくて、テレビの日本語放送などをたくさん見た。日本にも何度も行き、わかるようになった」とおっしゃっていました。

テレビを見て、話せるようになるなんて、すごい能力だ、とも思いますし、日本語って、日本人が思うほど難しい言葉ではないのではないか、と思います。

皆さんも、まだ行ったことがなければ、ぜひ台湾に旅行されることをお勧めします。ただ、雨季に行くと、気が狂うほど蒸し暑いですが。

戸髙恵美子(千葉大学環境健康フィールド科学センター 助教)